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「お前俺のこと好きやろ」

私を見下ろして言った侑に、私は全身の動きを止めた。遂にこの時が来てしまった。強豪・稲荷崎高校男子バレー部において女子マネージャーと選手の恋愛はご法度だ。にも関わらず、私は侑に恋をし続けてきた。付き合うつもりも、告白するつもりもなく、ただ陰から見ていられればいいと思っていた。それも今日で終わりのようだ。侑のバレーへの情熱は言わずもがなだし、侑本人がバレーに恋愛ごとを持ち込まれるのを嫌がりそうでもある。いつかはこうなる運命だったのかもしれないが、それでも私は侑とただの同級生にすらなれないのが嫌だった。ごめん、もう諦める、何でもいいからとにかくこれ以上嫌われるのは避けなくてはならない。私が弁明しようとした時、斜め上を見ながら侑が口を開いた。

「ほな今度のオフ駅前に来い。どっか連れてったる」

私はまたもや思考停止した。侑からお咎めの言葉はない。怒っている様子でもない。だとすれば、今度のオフに私はとっちめられるのだろうか。

「そこで何するん?」
「何するんって、普通にメシ食ったり、映画観たりやろ」

私が想定していた内容とはまるで違う。私が思っていたのは、休日に一人説教をされる展開だ。これではまるで、デートではないか。そう思ったところで私は目の前の侑の様子を見た。どこか居づらそうに、後頭部を掻いたり目線を動かしたりしている。これは私が侑のことを好きで怒っているのではなく、むしろ利用してやろうとしているのではないか。私に好きになられて侑が得をするのならば、それは侑が私を好きということだ。侑の性格からしてもどうでもいい女にわざわざオフの時間を割かないだろう。

「それって、デートなん?」

私が言うと、侑は分かりやすく視線を泳がせた。

「まあ、そうかもしれへんな」

その言葉を聞いた瞬間に目の前のこの好きな男にある種の怒りが湧いた。こいつは、私の気持ちは白状させた上で自分の気持ちには白を切るつもりだ。「好き」と分かりやすく言わないのがその証拠だろう。侑と付き合ってきた上で、私は侑にとって手が出ない高値の花の美少女ではなく、何なら少し下に見ているいつもの部活の女という立ち位置にいることは自覚している。そんな女に好きなど言ってたまるかという侑の声が聞こえてきそうだ。

「デート申し込むなんて、どんな心境の変化やろなぁ」
「たまには俺に万年片思いの可哀想な女に夢見させてやってもええやろ!」
「まだ私は侑を好きかどうか答えてへんのやけどなぁ」

すると侑は悔しそうな顔をしながら「お前はどうせ俺が好きやろ! それ以外ありえへん!」と言った。形勢逆転、いつの間にか私が侑を追い込んでいる。

「どうやろなぁ。侑が私をどう思ってるかによって、変わるかもしれへんなぁ」

すると侑は葛藤するように唸ったり頭に手をやったりした後、私に向かって吠えたのだった。

「好きじゃボケ! これで満足か!」

私は少し笑って、「これでデートしたってもええよ」と言った。侑は私を馬鹿にするように鼻で笑った。