▼ ▲ ▼
文化祭の季節がやってきた。私のクラスは例に漏れずコスプレ喫茶をすることになった。クラス一の美人が着るクラシックメイド服はさまになっていて、我がクラスの勝利を窺わせる。衣装は去年コスプレ喫茶をしたクラスから譲り受けることになっており、先輩のいる男子バレー部のメンバーが仲介役を果たしていた。
「見て、こういうのもあったみたい」
昼神が出したのはいかにもウケを狙った間抜けな犬の着ぐるみである。今は殆どがメイド服の試着に気を取られており、昼神の言葉に気付いたのは数人だ。その中で私は、昼神と気の置けない仲であった。
目が合った瞬間、昼神が何を企んでいるのかを察する。
「やめてよ! 昼神のこと嫌いになるよ」
これはフリではない。昼神はこの間抜けな犬の着ぐるみを私に着せて、クラス一の美少女の前で公開処刑させる気なのだろう。昼神がクラスの女子の美醜について言及する場面はあまり見たことがないが、私をからかうのは得意だ。昼神は単純に疑問を口にした。
「名前ちゃんって俺のこと好きだったの?」
思わず言葉に詰まる。言葉の揚げ足を取られた気分だ。嫌いになるよ、と言われれば元から好きだと言っているようなものである。
「それに俺が名前ちゃんからどう思われてるかを気にしてると思ってたの?」
「そ、それは……」
私は何も言えなくなってしまう。振り返ってみれば、随分奢った台詞を言ったものだ。
本気で困惑した様子の私を見て、昼神は能天気に笑い出した。
「あはは、ごめん、いじめすぎたね。俺は名前ちゃんが好きだし、名前ちゃんから好かれたいと思ってるよ」
それはフォローのつもりなのだろうか。むしろもっと困ることを昼神は言ってのけた。場合によっては、私は昼神との友達という関係性をやめなくてはいけないかもしれない。
「今の告白?」
私が聞くと、昼神は読めない瞳で続けた。
「そう捉えてもらってもいいし、お望みなら後夜祭でダンスしながら告白するよ」
後夜祭で踊りながら告白をするというのは我が校の定番だ。昼神はロマンチックなシチュエーションとしてそれを挙げたのだろう。確かに、昼神は少女漫画めいたことをするのに照れや恥じらいがなさそうに見える。だが、私がそういったものを欲しているわけではない。
「ううん、告白は、普通でいい……」
いつのまにか昼神のペースに乗せられていた。何故このような恋愛話を昼神に打ち明けているのだろう。迷いながら昼神を見上げると、昼神が私と目線を合わせた。
「そう。じゃあ名前ちゃん、好きだよ。付き合ってください」
冗談とも本気ともつかないその瞳を、今は信じていいのだろうか。
/kougk/novel/6/?index=1