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「全っ然変わらへん!」

 下校時間を合わせて一緒に帰路を辿っていたある時、唐突に侑は叫び出した。

「何が?」

 あくまで冷静に尋ねると、それすら気に入らないと言うように侑は嘆く。

「付き合ったのに雰囲気が前のままやん!」

 確かに、私達は恋人同士だというのに甘い雰囲気すらなかった。今は侑が両手を使って頭を抱えているため手も繋いでいない。だが、無理をする必要もないと思う。

「別にそれでもええんちゃう」
「よくないわ! 俺らはれっきとした恋人同士やろ!」

 堂々と言ってのける侑に、思わず小言をこぼしたくなる。侑も好きだったくせに、私ごときに自分から告白したくないからと私から告白させるよう散々手回ししたのは誰だったか。侑が私を下に見ていることは間違いないのだが、その割には恋人であることを強調するらしい。

「普通女の方から色目使うもんやねん。何でお前はできんの?」
「侑がそういう雰囲気にさせるもんなんとちゃう? 誰でも侑に尻尾振ると思ったら大間違いやで」

 侑のファンのミーハー女子と比べるな、と言いたいのを我慢して私は言い返した。いつのまにか喧嘩のようになっており、短気な侑は私の言葉に目敏く反応した。

「何やと!」
「ほら」

 侑が私の方を振り向いたところで指摘する。侑は不思議そうな顔をしていたが、私が何を言いたいのか理解したように表情を変えた。

「結構距離近いやん。私達恋人らしいこともできるんちゃうか?」

 喧嘩とはいえ、顔を限界まで近づけ合っていたのは事実だ。私達は男女であるわけで、顔という唇を含む部位を近付ければそれなりに意識してしまう。まさに今の侑のように。

「一人でポワポワすんなや」

 私に指摘され、侑は必死な様子で「うっさいわ!」と言った。側から見れば普段の言い合いと変わらないが、喧嘩と言うにはあまりにも侑の表情は浮かれていた。