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 幸村君の久々のオフに、私は彼の家へと招かれていた。私は幸村君の正式な彼女であるので彼は二人で過ごそうと決めたのだろう。他愛無い話をし、菓子をつまんで、彼が育てているという植物を見た。側から見たら恋人同士なのか友達なのかわからない光景だろう。だが私達は確実に想い合っていたし、頭の裏で距離感を探っていた。恋人同士がすることはわかっているけれど、どうにも勇気が出ないのだ。私達はまだ中学生の子供だった。大人のようなことをして責任がとれるわけでもないし、勿論それに対しての恐怖もある。しかし、幸村君はベッドに座って「おいで」と隣を叩いた。

 幸村君のベッドは柔らかく、幸村君の匂いがした。立ち込める性の気配に、今私はこれまでになく緊張していることだろう。幸村君が私にそういったことを無理強いしないことはわかっている。しかし男子中学生なのだから当然興味のようなものがあるともわかっている。中学生の内は大人の真似事はしない、といつしか暗黙に決められていたが、限りなくそれに近い行為に私の胸は高鳴っていた。今、私達はベッドに寝転んでいて、隣には幸村君がいる。ここから服を脱いでお互いの肌に触れ合うことは、まだなんとなく想像できなかった。

 幸村君が私に体を寄せる。多分、幸村君もそれをすることに抵抗があるのだ。でも、私と近付きたいと思っている。私達はセックスという行為を避けているくせに、それに近いような行為を幾度となくした。相手とくっついていたい、という欲がいつしか繋がりたい、になるのだろう。

「精市」

 幸村君の手を握って、私は彼の名前を呼んだ。幸村君は困ったような笑みを浮かべて、私の手を握り返す。

「これでも限界に近いんだけど、今それを言う?」

 とは言いつつも、限界を超えたところで私を襲ったりはしないのだろう。私は幸村君に顔を向けて、悪戯に笑った。

「高校に入ったら、私を大人にしてね」

 幸村君との繋がりを予約するように言質を奪う。たった数ヶ月先のことなのに、私は高校生になったら全ての覚悟が決まると信じて疑わなかった。

「勿論。それまでキミは少女のままでいてね」

 幸村君が私にキスを落とす。舌を絡めることはしなかった。多分、舌を入れたら私達を取り巻く雰囲気が変わってしまうから。私は繋いだ手に力を込める。今はこの恐れとプラトニックに甘えていたかった。