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「好きなんだけど。付き合って」

 佐久早から呼び出されたのは突然のことだった。目線を逸らして、ぶっきらぼうな言葉で気持ちを伝えるのがなんとも佐久早らしい。佐久早を想っていたわけではなかったが、佐久早に告白されて悪い気はしなかった。強豪のバレー部のエースで、背も高い佐久早はクラスメイトから一目置かれている。その隣に並べると思うと、自然と心がときめいた。

「いいよ」

 私は何でもないように答える。佐久早は一瞬私に目をやると、また視線をどこかへ逸らした。

「俺のこと好きなのか」

 佐久早が緊張しているのが伝わる。私は決して佐久早の期待しているような答えが返せるわけではないけれど、誠意を込めて返した。

「あんまり意識してなかったけど、佐久早なら全然嬉しいっていうか」

 佐久早は気落ちしつつも、喜んだ顔をしてくれると思っていた。だが予想外に、佐久早は興が冷めたような顔で私を見下ろした。

「好きじゃないならいい。俺は本気の奴としか付き合いたくない」

 現状についていけないが、私がフラれているということはわかる。

「えっ何で!? 私のこと好きなんじゃないの!?」
「お前のことは好きだ。でも両思いじゃないなら付き合わない」

 まるで夢見がちな乙女のような思考に口を閉じたり開けたりする。私が告白されているはずなのに、気付けば私が佐久早に縋っていた。

「それくらいいいじゃん! 付き合おうよ!」
「断る。俺は俺を好きな女としか付き合いたくない」

 すっかり熱を失った様子の佐久早に私は唇を尖らせる。

「でも私に片思いしてたくせに……」

 佐久早は弾かれたように顔を上げると、珍しく動揺した表情で私を見下ろした。その慌てようはマスクの上からでも確認できる。

「お前! そういうこと言うのか!」
「事実じゃん。さっきの告白は何だったのよ」

 むくれてみせる私に対し、佐久早は必死な様子で肩を掴んだ。

「あの告白は忘れろ。いいな?」
「忘れないもん」
「お前……」

 先程告白があったとは思えないほどの雰囲気だが、構わず私はつっけんどんな態度を取る。眉を上げて佐久早を一瞥すると、佐久早は悔しそうな表情を浮かべていた。

「要は私が佐久早を好きになればいいんでしょ」
「は」
「それまで忘れてやらないんだから」

 私が去る前にもう一度佐久早を見ると、佐久早は驚いた表情で固まっていた。佐久早のことを恋愛の意味で好きだとはまだ思えない。しかし、クールな佐久早をこの手で操れるのは結構面白い気がする。私は軽い足取りで教室へ戻った。