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名前の誕生日を控えた今日、二人は侑の勝利祝いとして食事に出かけた。侑が予約したレストランは雰囲気も質も申し分なく、特別な一日を演出してくれる。名前は興奮した様子でメニューに目を走らせた。その様子を見ながら侑は店員に目線を送る。今日、侑は名前にプロポーズをする。そのためにこのレストランを予約したのだ。
事は円滑に進んでいるように思えた。料理の味は言わずもがなだし、名前もこのレストランを気に入っているように見える。酒に酔う余裕はなかったが、名前はほろ酔いで気分が良さそうに見えた。
そろそろだろうか。侑が「なあ、」と口を開いた時、隣のテーブルで一際大きな声がした。
「結婚してください!」
指輪を見せた男に、女は口元を押さえた後頷く。
「はい……!」
ムードのある音楽が流れ出し、ウェイターがケーキを運んできた。
「わー凄い! プロポーズや!」
「せ、せやな……」
名前は手を叩いて二人を祝福する。その向かいで、侑はウェイターに視線を寄越した。今日二件のプロポーズがあるなど聞いていない。先を越されては、後からする侑があまりにも格好つかないではないか。しかし、プロポーズプランをもう予約してしまった。人気のレストランとなれば被ることもあるのかもしれない。侑は必死に冷静さを取り戻そうとした。
「雰囲気あるなぁ。けど高級レストランでプロポーズっていかにもベタやな」
名前の言葉に、侑はグラスを持った手を止める。
「せやろか? ええやん、高級レストラン」
侑の言葉は不自然になっていないだろうか。侑の心中も知らず、名前は笑ってみせる。
「え〜? 侑とか絶対嫌ってそうやん!」
「俺はさっきのプロポーズ滅茶苦茶よかったと思ってんけど!?」
ここに来てレストランでのプロポーズを却下されたくない。侑の必死さに、名前は驚いたように身じろぎした。
「な、何やねん急に怒って」
その時だ。名前の前に手をついて大声で叫んだことがトリガーとなったのだろう。先程のやりとりを求婚と認識したらしいウェイターが、ケーキを運んできた。
「お待たせしました。お祝いのケーキです」
「え? 何? 今日誕生日ちゃうよな?」
あまりの段取りの悪さに頭を抱えたくなる。だがもう前に進むしかない。今日名前にプロポーズすると決めたのだから。
「サプラ〜イズ」
侑はおどけた調子で指輪の箱を開けてみせた。多分これが、世界一情けないプロポーズだ。
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