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 初デート当日の日曜日、待ち合わせ場所に現れた飛雄を見て私は絶句した。力みすぎなのはいつものことであるが、今日は目が真っ赤に充血しているのだ。私は脳裏で想像を巡らせた。真っ直ぐすぎるほどの想いをぶつけてくれる飛雄のことだ。初デートに気合を入れすぎて、昨晩眠れなかったのだろう。大事な日の前に眠れない飛雄を可愛いと思う気持ちよりも、心配が先に立った。今日行く先が映画館ならば少しは眠れただろうが、街を歩く予定なのだ。寝不足の体には堪えるだろうし、何よりスポーツマンの飛雄が体調を崩すようなことはあってはならない。私は飛雄の袖を引いた。

「飛雄の家か寝れるところ行こう? ちょっと休もうよ」

 飛雄は遠慮なく、充血した目をこちらへ向けた。

「いいんスか」
「うん。飛雄のためだよ。寝よう?」

 繁華街であったことが幸いして、寝れる場所はいくつか見つかった。中でも抵抗の少ない漫画喫茶を選ぶ。最近はベッドのように寝ることができる席もあるようで、私達はそこを一部屋取った。部屋は全て壁と扉で覆われており、完全な密室になっていた。

「さあ、ゆっくり寝て。そんな目じゃ昨日眠れなかったんでしょ」

 私は枕代わりにアウターを丸め床を叩く。飛雄は不思議そうな顔で私を見た。

「これですか? 昨日姉貴に犬が死ぬ系の映画観せられただけですけど」
「え?」

 飛雄は滑らかな動きで荷物を下ろし、私を床に押し倒した。

「寝ようって、こういうことですよね?」

 違う。私達の間には、誤解が生じている。それが事実なのだけど、わざわざ訂正するより飛雄に任せてみたくて、私は唾を飲み込んだ。