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サッカー部のキャプテンの相田君に告白された。サッカー部のキャプテンというと花形のイケメンという感じがするけれど、まさに期待を裏切らない美男子なのだ。その人気はうちの後輩の宮侑に相当すると言ってもいいだろう。おまけに人柄も良くスポーツもできるときている。そんな人が何故私に告白してくれたのか不思議で仕方ないが、事実今日私は相田君に呼び出された。返事を考えるより早く頭を過ぎったのは、この興奮を誰かと共有したいということだった。ひとまず私は相田君に保留する旨を申し出て、部活へとやってきたのだった。

「やばいわー、相田君ってこの間も三組の綺麗な子と付き合ってたやろ」
「ほんまやばいと思う、どうしよう何も考えられへん……」

選手の出て行った部室にて、用具の整理をしながら私達は口を動かす。その手つきも今日は鈍いと言えるだろう。仕事よりお喋りに花を咲かせるなどマネージャー失格だが、今日だけは許してほしい。何と言ったって私は相田君に告白されたのだから。

「あれ、スプレー忘れとるから一回体育館持ってくわ」
「はーい」

マネージャー仲間を見送り、私は引き続き用具箱の中身をひっかき回す。一人になったことで胸の鼓動がより鮮明に感じられるようになってきた時、出入り口付近で靴の音がした。

「あれ、早いな」

用具箱を見ながら言った私は、次の言葉に顔を上げることになる。

「告白、されたんですか」

そこにいたのは宮侑だった。何で、と思うと同時に先程持って行ったスプレーは侑がよく使っていたものだということを思い出す。

「……聞いてたん?」

気まずいと思ってしまうのは、真面目にマネージャー業務をやらずに恋愛話をしていたことよりも侑が私に告白してくることが大きいだろう。侑は事あるごとに私に好きだと言う。それが本当なのか、疑ってしまうくらいの軽さで。

「質問に答えてください」

今は普段のおちゃらけた侑の影はなく、ただ怒っているのだということが伝わってきた。私は視線を逸らしながら、「せやけど」と答える。私が告白されたとして、侑に何の関係があるのだろう。仮に侑が私を好きだとしても、付き合っていないのだから告白されたことで怒られる筋合いはない。どうしようが私の自由だ。怒るとしても、その矛先は相田君に向くべきではないのだろうか。私が侑を見ると、その反抗的な意思を汲み取ったのかさらに侑の怒りに火がつく音がする。ああ、もう逃げ出したい。

「俺の告白は適当に聞き流すくせに、他の男に好きや言われたら真面目に考え出すんですか」
「そ、それは」
「何でですか」

気付けば侑は、私とあと数歩の所まで来ている。残念ながら私は侑を納得させられるような答えを持っていない。侑はいつもからかってくる後輩で、お調子者で、告白だって冗談みたいなものだと思っていたのだ。でも侑が冗談で告白していたとするならば、今ここで怒る理由がない。つまり、侑は私のことが好きなのだ。

理解したと同時に私は両手で顔を覆った。ただでさえ相田君に告白されたことでいっぱいいっぱいだというのに、そこに侑まで加われば私の頭の中は大渋滞だ。

「あーもう、ホンマめんどくさい後輩や」

思わず愚痴をこぼした私に、「それって間接的に俺のことフってますかァ!」とうるさい後輩が吠えた。