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 読書の課題が出て学校の図書室で本を借りた。のはいいのだが、本の間に手紙が入っていた。好きです、と書かれたそれは恐らくラブレターだろう。よく栞代わりに使おうと思ったものだ。問題はこれをどうするかである。このままにしては私のラブレターだと思われかねないし、かといって私が持っておくわけにもいかない。仕方なく私は巻末の貸出カードを見た。アナログな我が校は、データをバーコードではなくカードで管理しているのだ。幸いと言うべきか、前に借りた人は同じクラスの昼神君だった。私が告白しているような奇妙な緊張感に襲われながらも、私はラブレターを差し出す。

「これ、忘れてるよ」

 昼神君は手紙を見たまま数度瞬いた。恥ずかしいから早く受け取ってほしいのだけど、という私の願いも届かず、昼神君は受け取らない。

「ああ、それ持ってていいよ」
「え?」

 昼神君は何を言っているのだろう。状況について行けない私に、昼神君は笑顔で続けた。

「名前ちゃんへだから。名前ちゃんが借りそうな本を探して挟んでおいたんだ。で、どう思った?」

 昼神君の行動も、感想を求められていることも意味がわからない。ただ、昼神君の質問には答えなければいけないという圧を感じる。

「どう思ったって……私にじゃないと思ってたけど、どきどきした……」

 それはきっとラブレターを扱う緊張なのだろうが、今の私には恋愛のそれと区別がつかなくなっている。この状態まで、昼神君か作り出したものなのだろうか。

「名前ちゃんならきっと俺に渡してくれると思ったんだ、ラブレター」

 私の気持ちを勝手に決めるかのような昼神君の言い方に反論する。

「それだと私が書いたみたいじゃん」

 しかし、弁論が上手なのは圧倒的に昼神君の方だった。

「別に捨ててくれてもよかったんだよ? 何でわざわざ俺の所に届けに来てくれたの?」
「それは……昼神君の大事なものだと思って……」

 しどろもどろになる私を昼神君は丸め込む。

「ならもう俺が好きなんだよ」

 元から昼神君が好きだったのか、今昼神君に言われて好きになったのかわからない、奇妙な感覚に陥っていた。一つ明らかなのは、今私は昼神君が好きであるということだ。ならこのラブレターを受け取っていいのではないかと思う私はきっと、昼神君の手中に落ちている。