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 卒業式が終わると、私は中庭で目当ての人を探した。彼は一際目立つ長身で、大勢の後輩に囲まれていた。今は部員同士で最後の交流をしているのだろう。だが私も、これが最後なのだ。意を決して牛島君に近付くと、牛島君はすぐに顔を上げて私を見た。牛島君は私がこの日に来たというだけで、何の用であるか見越したようだった。

「正直に言う。お前のことは好きではない」

 後輩達に断りを入れ、牛島君は私に向き合う。告白する前からフラれてしまうほど虚しいことがあるだろうか。だが不思議と、牛島君は相手を退けるには誠実すぎるくらいの態度なのだった。

「だが三年間他に男も作らず俺を追い続けたお前の気持ちを、俺は認めざるを得ない」

 心臓の音が一際大きく鳴る。今、話の方向が変わった。牛島君はこれから何を言おうとしているのだろうか。私は信じられない思いで牛島君を見上げる。

「一年やる。お前のことを好きにさせろ」

 牛島君はそれだけ言ってまた男子バレー部の輪に入ってしまった。残された私は一人彼の言葉を反芻する。私は付き合ってくださいと言ったわけではない。しかし、私の想いを見透かした牛島君に、私はオーケーされたのだろうか。
 夢見心地でいる暇もなく、私の周りにはバレー部の部員が集まり始めた。

「てゆーか若利君、一年も付き合う気なんだ。何年か前告白されたミス白鳥沢は一週間で別れたくせに」
「ありゃあもう気付いてないのは本人だけだな」
「あいつ鈍感だから、頑張れよ!」

 今の寸劇はバレー部の部員の目の前で行われたことを思い出す。かけられた言葉に、私は喜ぶべきなのか悲しむべきなのかわかりやしない。ただ中途半端はしなさそうな牛島君が一年という期間を私に与えたことの意味は、少なからず前向きに捉えていいのではないかと思った。牛島君を好きになって三年目の春、ここから私達は始まる。