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 自動販売機でお茶を買おうとしたところ、間違えてぐんぐんヨーグルトを買ってしまった。ヨーグルト飲料が嫌いなわけではないのだが、ご飯のお供には合わない。新しくお茶を買い直したはいいものの、飲まれることのないぐんぐんヨーグルトを持て余していたところに、影山君を見つけた。影山君は大のぐんぐんヨーグルト好きだ。本当に好きで飲んでいるのか背を伸ばすためなのかはわからないが、とにかく影山君ならこの一本を消費してくれることだろう。

「好きでしょ」

 私は影山君の机にぐんぐんヨーグルトを置いた。窓から外を眺めていた影山君は、夢から醒めたように勢いよくこちらを振り返った。

「え! 何で俺が苗字さんのこと好きなのわかったんスか!」
「そっちじゃなくてヨーグルト!」

 影山君は今自分が告白に等しい発言をしたと気付いているのだろうか。微塵も恥じらうそぶりがないのを見ていると何故かこちらが恥ずかしくなってしまう。幸い昼休みの教室の喧噪に紛れて私達に注目する人はいなかった。

「この際だし付き合ってもらえませんか!」

 まだ恋愛の話をしているのだろう。影山君はぐんぐんヨーグルトに一目もくれずに言う。それには私も答えざるを得なかった。

「告白を省略しようとしないでよ」

 影山君からしてみたら、好きな人に気持ちを指摘されたのでバレたついでに付き合ってしまおう、という感じなのだろう。だが本当に好きな人ならきちんと告白の手順を踏むべきではないだろうか。この際私が影山君の好きな人であることを認めているのはいいとして話を進めなければならない。

「じゃあ告白したら付き合ってくれるんですか?」

 そう尋ねた影山君に、「できるの?」と聞き返す。たった今結構抜けていることを知ってしまったが、影山君とはクールな人物だ。ムードもなければ周りに見られている状況で告白するなど抵抗があるのではないだろうか。影山君は「できますよ」と言うと、大きく息を吸い込んだ。

「苗字さんが好きです!」

 影山君の胸が膨らんだ時点で気付くべきであったのかもしれない。影山君の声は教室を切り裂き、周りの人の注意を引くには十分だった。名前を出された私に逃げ場などなく、クラスメイトの視線を受けながら返事をするはめになったのだった。