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「すっごー!」

 エースが披露したマジックを見て私は興奮状態に陥った。その勢いで、エースの方に体を寄せる。ちょうどエースに体をもたれかけさせるかのように。

「あ、ごめん……」

 急に我に返った私はそっと体を離した。後から恥ずかしさが込み上げてくる。今気まずいそぶりをすればするほど、意識しているようではないか。

 エースは照れも怒りもせず、普段通りの表情を浮かべた。

「いや、俺のこと好きなら仕方なくね?」
「へ?」

 思わず情けない声が出る。エース本人に気持ちがバレているのは知っていたけれど、ここまで普通に会話に出されるとは思っていなかったのだ。エースも少しは特別なことだと思っていてくれればいいのに、エースにとってはそれが当たり前のような口調で話す。エースは片目を細めて悪戯に笑いかけた。

「俺のこと好きな限り許してあげる」

 エースは、私に好かれて迷惑ではないのだろうか。それどころか、好かれたいと思っている? けれどそれがエースも私を好きだということに直結するわけではないのだろう。エースの感情は読めない。今の触れ合いが許されるなら、私は好きであれば何をしてもいいのだろうか。

「その代わり俺のこと見なくなったら今までの分支払ってもらうからな?」

 調子のいいことを思っていたところに釘を刺される。対価を求めるなどどこかの寮長のようだと思いながら私は口を開いた。

「支払ってもらうって?」

 恐る恐るエースを見上げれば、エースは短く口にする。

「借金」

 私がするのはエースへの恋愛感情からのちょっかいや触れ合いであって、決してお金を借りるという行為ではないのだけど、エースにはそう映っているようだ。いずれにせよ、エースとしては「サービスしてあげている」という意識なのだろう。別に私を好きだから許しているわけではない。やはりエースは読めない。ではどうすればいいのかと聞こうとしたところで、エースは席を立って笑顔で言い放った。

「俺から離れんなよ〜」

 そのまま立ち去るエースをぼうっと見つめる。ひとまず、ずっとエースを好きでいれば私は何も対価を支払わなくていいのだろうか。それでエースに何でもできるのだと言うなら、随分安い話だ。