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 佐久早君が私の前に現れたのは告白から数週間経ってからのことだった。普通少しは気まずいと思うのだろうけれど、佐久早君は何の躊躇いもなく言った。

「返事したいからもう一回告白して」

 返事、というのはこの間の私の告白で間違いないだろう。待っていたくせに突然現れた結果に私は動揺した。

「え……それ必要? 恥ずかしいんだけど」
「俺も何も言われてないのに一方的に切り出すのは恥ずかしい」

 そう語る佐久早君の瞳にはちっとも恥じらいが含まれていない。私は勇気を出したのだから、ここは佐久早君が頑張る所なのではないか。佐久早君は私を責めるように続けた。

「お前が好きだって言ったんだろ」

 言葉の責任を問われ、私はあえなく降参した。それを言われては私は立つ瀬がない。告白したことを責められることがあるだろうかと思いながら、私は口を動かす。

「す、好きです」

 確か、佐久早君に告白した時もこの台詞であったはずだ。早く進めてくれという私の思いとは対照的に、佐久早君は返事を焦らした。

「その続きは?」
「付き合ってください!」

 私は自棄になって叫ぶ。すると「わかった」と佐久早君の方から声がした。信じられない気持ちで顔を上げると、佐久早君が相変わらずの濡羽色の瞳で佇んでいた。「わかった」一つのためだけに告白させられたのかとも思うが、嬉しいことに代わりない。佐久早君は、自分で返事ができないシャイな男の子なのだ。

 と、思っていたのだけれど。

 付き合って四年、大学生になった私達は同じ部屋を借りて住んでいた。大学の練習を終えた佐久早君が帰宅してすぐに口にしたのだ。

「今日むかつくことがあったから告白して」

 やはり佐久早君は返事がしたかったのではなく、私の告白を聞きたかっただけなのかもしれない。そう思いつつも、喜んでしまうのが私なのだった。