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 高校を卒業して五年ぶりに集まった。宴もピークを越え、次第に話が乱れていく。ふとスマートフォンを開くと、充電はあと僅かしかなかった。今日は朝から外出していたので使いすぎてしまったのだろう。確かモバイルバッテリーは鞄の中に入っていたはずだ。鞄を漁っていれば、「帰るのか?」と横から声がした。

「残り少ないから充電しなきゃ」

 かつての同期にそう言って、モバイルバッテリーを探し当てる。さあ充電しようと思った時、私の体は大きな何かに包まれた。

「ちょ、飛雄! 何するの」

 私は必死に飛雄をどかそうとするが、図体と態度だけはでかいこの男に抗えない。飛雄は酔っているのだろうか。交際している相手で、周りもそれを知っているとはいえ、かつての同期の目の前で抱きつく必要があるだろうか。飛雄は離すどころか私の肩口に顔を埋める。

「俺に抱きつくことが充電って言ってたじゃないですか」

 途端に私は恥ずかしさに襲われる。疲れきった時、飛雄に甘えて抱きつくことが私にとっての栄養補給だった。飛雄と触れ合うことで、力を貰っていたのだ。だがそれとスマートフォンの充電では話が違う。

「そうだけど! ここでそんなこと暴露させるな!」

 私の言葉は飛雄が言ったことを真実だと認めることになり、周りからは温かい目で見られた。「影山と苗字が恋愛してるとこってあんまり想像つかない」と言われたこともある。多分彼は、今日私達が普通のカップル、いやバカップルだと悟ったことだろう。

「ラブラブだなぁ」

 先輩の言葉に恥ずかしくなる。飛雄の体の影に隠れようとしても、飛雄がそれを許さない。

「充電溜まりましたか?」

 顔を上げた飛雄は通常より少し頬が赤くて、しかし泥酔しているとも言えず、これは飛雄の通常運転なのだと思い知らされた。

「恥ずかしさなら溜まったよ」

 私も酔っていれば、恥ずかしくなどならなかったのに。飛雄以外の男もいるからと、節制しなければよかった。私は自分の潔癖さを後悔するはめになった。