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「いけるんちゃう? 苗字に言えばええやん」

マネージャー室で着替えを済ませ校門を出ようとした時、唐突に私の名前が聞こえてきた。「え? 何」私が男子バレー部二年の集団に近寄りながら言うと、治がこちらを振り返りながら言った。

「ツムが苗字のこと好きなんやと」
「そうなんか、知らんかったわ」

どうせ一緒になったことだしと私は二年連中の隣に並ぶ。幸い男子バレー部は部活に力を入れている稲荷崎の中でも遅くまで残っている方で、男子の中に女子一人が混じることを冷やかすような人はいない。すると渦中の侑がこちらを向き、何やら必死そうな表情で言った。

「いやおかしいやろ、何で人の恋愛事情勝手に言うねん! よりによって本人やぞ!? そんでお前も何やそのリアクションは!」

指を差された私と治は顔を見合わせる。

「何って言われてもねぇ……」
「聞かれたから答えただけやし」

至って平然として駅への道を歩く私達を侑は我慢できないという表情で見ていた。気付けば私は侑を追い越し、侑は二年連中に一人置いて行かれている。角名と銀はもうこの話題に興味もなくなったようで別の話をしているし、治も「今日の夕飯何やろか」などと言っている。

「どっちにしろ駅のコンビニで買い食いするんやろ。ほんまよく胃と財布が持つわ」
「財布については破綻寸前や」

するといつのまに追いついたのか、侑が突然私の肩を掴んで叫んだ。

「俺の告白に対する返事を! せえ!」

突然の出来事と侑のあまりの気迫に面食らってしまう。侑は、こんなにも何かに必死で縋り付く情けない姿を晒す人だっただろうか。

「いや、別にオーケーでええけど……そもそも侑告白してないやん……」
「ツムが苗字のこと好きやってことは俺が言うたよな」

確かめ合うように治と私は顔を見合わせる。すると侑は先程にも負けず劣らずの気迫で私の肩を掴んだ。

「オーケー!? オーケーなんやな!?」
「いやオーケー言うとるやん何なの!?」
「よっしゃ! 言質取ったぞ!」

一人で叫んでいる侑に「何やねんアイツ……」と引いたように治が言った。私も同意見だ。

「ていうか何でそんなサラッと告白の返事すんねん! 相手は俺やぞ!? もっと雰囲気出せや!」

あと誰が告白したかはこの際どうでもええんです! そう熱弁する侑を私は振り向きざまに見る。

「自分から好きや言うといて不満の多い彼氏やな……」
「あれと付き合うのは大変なんちゃう?」

その場に突っ立っている侑を置いて私達は通学路を辿る。校門を出てからというものの、私は文句しか言われていない。なのに世間的には出来立てほやほやのカップルになっているのだから不思議だ。あまりにも侑が来ないものだから「いつまでそうしとんねん」と言ったら、「余韻を噛み締めとんねん!」と返された。今日は何を言っても噛み付かれる日のようだ。