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「影山ってさぁ、釣った魚に餌をやらないタイプ?」
きっかけはそう問われたことである。何でも、ものにした女子を気にかけてやらないと逃げられてしまうらしい。これはいけないと焦った影山は名前へ食べ物を貢ぐようになった。影山らしい乳飲料からお菓子まで、その内容は多岐に渡る。一方突然彼氏から食べ物を与えられるようになった名前は、困惑するばかりだった。
「どうして?」
名前の問いに、影山は真面目な顔で答える。
「餌をやらないと、苗字さんが他の男のとこ行っちまうって」
だから食べ物だったのか、と名前は納得する。影山の単純さに呆れながらも、名前は冷静に突っ込んだ。
「それじゃ援交だよ」
すると影山の腹からの声が響き渡る。
「援交じゃないです!」
勿論これはものの例えで、影山が本気で名前を好いていることはわかっている。勿論名前も影山が好きだ。影山の知り合いが言った「釣った魚に餌をやる」というのは、友達から彼女に関係を変えた後、それらしい――恋人にしかしないようなことをしてやるということではないのだろうか。
「じゃあ好きだよって声にするだけでいいの」
名前が言うと、影山は呆然とした顔で瞬きを繰り返した。
「それだけ……? 女子って金とか物が好きなんじゃないんですか」
それはあくまで世間一般のイメージだろう。好きな影山から甘い言葉を囁かれるだけで舞い上がる単純な女もここにいるのだ。
「影山君の好きには価値があるからね。毎日言ってくれたらなおいいよ」
「わかりました!」
こうして影山の貢ぎ物は止み、代わりに毎朝挨拶のごとく大声で好きだと告げる影山が誕生した。周りはそれをバカップルだと言ったが、二人の関係維持のためには欠かせないのである。
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