▼ ▲ ▼

 仲の良い友人を呼んでホームパーティーをしたら、結果的に友人の友人まで呼ぶことになった。皆が片付けに協力してくれたおかげで無事にパーティーは終わったのだが、ローテーブルの上に私はとんでもないものを見つけた。本物としか思えない保険証が一枚、名前欄には影山飛雄。先程交換したばかりの連絡先に電話をかけても全く通じない。仕方なく私は共通の知人に連絡をとり、彼の自宅まで急いだのだった。

「忘れ物! 何で保険証なんか忘れるの!?」

 彼はちょうどマンションへ入ろうとするところだった。私に言われて驚くでもなく、当たり前のように保険証を受け取る。

「好きな人の家には忘れ物をするといいとあったので」

 この際私は軽く告白をされたことなどどうでもよかった。私が保険証を見つけた時の焦燥を、彼は無駄にしたのだ。

「だとしてももうちょっとどうでもいいものにしてよ! こっちが不安になるでしょ!」

 他のものならば後日取りにこさせることも可能だが、保険証ではそうもいかない。急に怪我や病気をした時に、莫大な金額を払うはめになるかもしれないからだ。落としたことにも気付いていないだろうと急いで影山君の最寄りまで来た私がバカみたいではないか。

 怒る私とは対照的に、彼は満足そうな顔をした。

「でもこうして名前さんが俺の部屋に来てくれました」

 それは多分、私のことを好きだから嬉しいのだろう。私は揚げ足を取るように言う。

「上がってないけどね」
「来てくれるだけでいいんです。計画成功です」

 そう澄み切った顔で言われると、何故か燻るものがある。影山君はなんと純粋な男なのだろうか。

「……折角だから少し上がっていけくらい言えばいいのに」

 私がぼやくと、影山君は優等生のような律儀さで断った。

「もう遅いですしいいですよ」
「そういうとこ! 本当に片思い成就させる気あんのか!」

 私は彼の味方でも何でもない、むしろ惚れられている相手だというのに、喝を入れるようなことを言ってしまう。好きな人が終電間近で自分のマンションにいて、家に上げない男がいるだろうか。奥手なのはいいことだが、それなら保険証を忘れたりしないでほしい。私が恨みがましい視線を向けると、彼は何もわかっていないように微笑むのだった。