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 凛は恋愛に興味がなかった。一生独身を貫くと決めているほどではないが、少なくとも今の自分に恋愛は必要ないと感じていた。だというのに、凛の後を名前はついて回る。最初は慕ってくれているのかと思ったが――それはそれで面倒だが――どうやら名前は凛のことを異性として好きであるらしい。凛は、面倒なことになったとため息を吐いた。異性を振るのもそれなりに気力が必要なのだ。しかも名前は年中凛につきまとっていたせいで少なからず情が発生していた。凛は、できる限り丁重に付き合えない旨を申し出た。自身の性格ゆえにぶっきらぼうであったことは否めない。だが名前はどうだろう。そんなこと関係ないとでも言いたげに、凛のことを好いたままではないか。これには凛も苛ついた。凛は名前の気持ちに応えられないと告げているのに。叶わない片思いをして名前の青春を無駄にする意味が、どこにあるのだろう。

 隣でどうでもいい話を繰り広げる名前の胸元を突然掴むと、凛は名前の唇を奪った。時間にしてほんの一瞬触れ合わせてから、すぐに離す。

「お前、もう俺のこと嫌いになれよ」

 名前は驚いた顔をしていた。凛は名前から好かれているのを知っていて、好きでもないのにキスをすることができる男なのだ。最低だと泣けばいい。そして凛から離れていけば、一番いい。名前はきっと凛を睨むと、何かを堪えるような顔で言った。

「余計好きになるんだよ、バカ……!」

 その表情に、初めて凛の中の何かが動いた。しかしそれが何であるか理解する前に、名前は走り去ってしまう。残された凛は、呆然と名前の背中を眺めていた。