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 休憩時間は水道で顔ごと洗いたい部員で混む。体育館の水道は満員になっていたので、仕方なく佐久早はグラウンドの水道へ移動した。頭から水を被って顔を上げると、そこには外部活の部員が何人かいる。よく見てみれば、クラスメイトの苗字が後輩らしき女と一緒にこちらへ近付いてきていた。

「あ、佐久早じゃん」

 苗字の声に手でも挙げようかと思った時、それより早く後輩が口を開く。

「え? 佐久早って名前先輩の好きな……あ!」

 彼女は余程注意力が散漫なのだろう。普通先輩の好きな人を、本人の前で言うだろうか。彼女自身も気付いた様子で、気まずそうにしている。いたたまれなくなった佐久早は、助け舟を出してやることにした。

「いや、いい。こいつが俺を好きなのは周知の事実だ」

 タオルで顔を拭いながら言うと、すかさず苗字の声が飛んでくる。

「周知って! 佐久早しか知らないし!」

 もはや自分の気持ちを誤魔化す気はないのだろう。佐久早は呆れた声で返す。

「お前わかりやすすぎんだよ。だからあんたは気にしなくていい」

 あくまで苗字の後輩をフォローするように言うと、彼女は「はい……」と小さな声で言った。普段とは違う佐久早の姿に、苗字が突っ込む。

「佐久早後輩には優しくない!?」
「お前が馬鹿すぎるだけだ」

 二人が言い合う姿を見ながら、苗字の後輩は心の中でぼやく。もうとっくに両思いだと思うのは、自分だけだろうか。それを教えてしまうのは先程庇ってくれた佐久早に悪い気がして、後輩は心の中で苗字を応援した。