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 言い訳をするならば、場所は人通りの多い廊下で、人に押されてよろめいていた。そして私達は全く意図しない形で、キスをしてしまったのである。

「いや……悪かった」

 侑は素直に謝った。何で俺がこんな奴と、など侑が言いそうなことなので、侑がしおらしくしているのは少し意外だった。私も私で特に怒る気はなかったので、落ち着いて言葉を返す。

「ファーストキスじゃないからええよ」

 すると今までの冷静さから一転、侑は関西人らしい血の気の多さで怒鳴った。

「は!? 何で初めてじゃないんや!」
「何で怒っとんの!?」
「当たり前やろうが!」

 侑は一体何故怒っているのだろう。私とキスをしたことはよくて、私がファーストキスではないことに怒るなどまるで侑のことがわからない。気分屋にも程があるだろう。

「さっきまで謝ってたくせに!」

 私が言うと、侑は言いたいことがあるのにうまく言えないような、もどかしそうな顔をした。このレスバトルは私の勝ちでいいだろうか。侑は口で私に勝つことは不可能と判断したのか、方向性を変えた。

「とりあえず今からごめんなさいのチューな」

 よく考えてみれば、このキスは罰則で、ごめんなさいを言うのは私ということなのだろう。とても先程まで事故キスに気まずそうな顔をしていた人の発言とは思えない。

「何で謝らなきゃいけないの」

 私が言うと、「謝るんやなくてチューや」と言いながら侑が迫ってきたので、私は悲鳴を発しながら人混みを逃げた。