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「お前、他の男のこと好きになれよ」

 突然の言葉に私は思わず及川を見た。今更及川に自分の気持ちが知られていることには驚かない。私が驚いたのは、及川が自分を好きでいることをやめるように言ったことだ。私は及川に片思いをして長いが、及川が何か干渉してくることはなかった。迷惑がることもなければ、喜ぶ様子もゼロだ。ただ好きにさせている、という言葉が合うような状態だった。きっと私の気持ちなど及川にとってはどうでもいいのだろう。及川にとっての一番はバレーなのだ。とはいえ、及川のように何かに打ち込むこともなく、青春を無為に及川に費やしている私に及川は同情したのかもしれない。

「私のこと憐れんでる?」

 躊躇せずに聞くと、及川は私から目を逸らして言った。

「俺を好きなまま時間を無駄にするよりいいだろ」

 言葉は変えたけれど、結局それは私を憐れんでいるということだ。実らない恋をする私を見ていられなくなったのだろう。ならば及川が振り向けば丸く収まるはずの話だが、及川にその気はないようだ。直接嫌いだと言われるよりも心が蝕まれる気がした。

「お前には報われない恋愛じゃなくて幸せな恋愛してほしいんだよ」

 私の吐息が漏れる。私の気持ちに応える気はないくせに、私に幸せになってほしいとはどういう了見だろう。及川のそういうところが憎くて、好きだ。いっそ一思いに振ってくれればいいのに、私を気遣うような言葉をかけるということが逆効果だと気付いているのだろうか。私に冷たくできない及川の優しさが、私を一層ダメにする。「当分無理かも」と言うと、「何でだよ」と及川が焦った顔をするので、私は思わず笑ってしまった。