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 合鍵を使って部屋に入ると、五条はベッドで寝ていた。付き合って数年経つが、五条が無防備な姿を私に見せることはあまりない。万一の時の攻撃力は十分とはいえ、常に気を張っている五条が人に寝ているところを見せるのは珍しい気がした。私はベッドに近寄る。五条はアイマスクを外して静かに寝入っていた。五条が起きるまで待っていてもいいのだが、ここで私の悪戯心が湧く。目が覚めた時、彼女が上に乗っていたら彼氏は嬉しいと聞いた。寝ている五条を無理やり襲うような度胸はないけれど、ちょっと真似だけしてみたら五条はどんな顔をするのだろうか。私は好奇心のままに五条の上に跨る。そして五条の胸元に手をやろうとした時、突然その手を掴まれた。

「誰?」

 五条が敵に見せる、冷たい声と表情だ。私は外敵と認識されたのだと悟った。

「ごめん、興味本位で」

 私は乾いた口で言い訳をする。五条は私をたっぷりと見た後、「なんだ、名前か」と言って手を離した。両腕を広げて大の字になる五条を見つめる。

「びっくりしたけど、意外かも。五条って敵だと思ったらすぐにのしちゃうのかと思ってた」

 五条悟は軽薄なようで容赦のない男である。敵が侵入したと悟ったら、それこそ部屋に入った時点で潰していてもおかしくない。五条の身の危険を考えると私は随分優しい対応だったと思う。

「ああ、敵はね。でも今回は女だったから」

 私は五条の上で首を傾げる。五条はそこまで女に優しいジェントルマンだっただろうか。五条は私が理解できていないことを見越したように言葉を足した。

「昔から五条家の子供が欲しくて襲ってくる女が多いんだよ。変に家と繋がりがあると、一方的にボコるわけにもいかないだろ」

 そういえば五条はいい御家柄なのだった。良家に生まれた者はそれなりに苦労するものだ。私は「大変なんだね」と言って五条から降りようとした。が、その体を五条が掴んだ。

「名前も僕の種目当てで来たんじゃないの?」
「種って……」

 あからさまな言い方に思わず辟易してしまう。私は五条をからかってみたかっただけで、今すぐ子供が欲しいと思っているわけではない。そもそも、五条家の人間と子供を作るなど簡単にできることではないのだ。

「私は五条目当てで来たんだけど」

 言い訳のつもりが、五条に火をつけてしまったらしい。五条は目を輝かせると上下を逆転させた。

「それじゃあお目当てのものをあげよう」
「ゴムはつけてね」

 あまり乗り気ではなかったけれど、五条家当主を独り占めできるのだと思ったら悪くはない。