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 現在若利の周りには山のようにファンレターが積まれており、若利はそれを一つずつ読んでいる。右から左へ流す作業なのかと思いきや、時折嬉しそうに微笑むこともあるのできちんと内容を把握しているのだろう。気付いたら私は変な顔をしてしまっていたらしかった。こちらを振り向いた若利は、冷静に「嫉妬か?」と尋ねた。

「私だって若利が可愛いモデルとかアナウンサーと手繋いで歩いてたら嫉妬するけどね、いちいちファンの女の子に嫉妬なんかしないよ」

 アスリートが人気職だということはわかっている。特に男子バレーはオリンピックの影響でミーハーなファンも増えており、若い女性客も多い。いちいち嫉妬していたらきりがないのだ。いつかは若利も結婚するとはいえ、それはまだ先だろうと思っている。

 私の話を聞いた若利は茫然としているようだった。若利に下部を握られたままの手紙がぺらり、と折れる。若利はどこか居心地が悪そうな調子で口を開いた。

「すまない、今のはファンレターを貰う人気に嫉妬しているかという意味だった」

 途端に私は顔が熱くなる。今のは恋愛的な意味ではなく、人気の話だったのだ。

「そ、それなら先に言ってよね!」

 今の私は余程格好悪いことだろう。若利とはただの幼馴染であるというのに、勝手に嫉妬して、若利との間に恋愛感情を持ち込んでいる。これで若利にフラれでもしたら幼馴染崩壊の危機だ。

「お前は俺が他の女といたら嫉妬、するのか」

 そう尋ねる若利の心情が読めない。面倒くさいと思っているのか、そもそも何故確かめたがるのか。

「……したら悪いの」

 苦し紛れに私が呟くと、若利はふと笑ってファンレターを読むことを再開した。その顔があまりにも嬉しそうだったので、私は「なんか言え!」と若利を攻撃した。