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 夜の十一時を回った頃、唐突にスマートフォンが鳴った。

「怖い夢を見た」

 そう語るのは幼馴染の糸師冴だ。果たして冴に怖いものなどあるのか、怖い夢を見て寂しくなるような人間なのか、そもそも冴はこの時間帯に寝るような時間帯だったのかと疑問が積もる。詳しく話を聞いてやろうとしたが、冴はそれ以上語る気はないらしい。後は私に任せる、といった様子だ。

「まさかこの時間に女一人で家に来いって言ってる?」

 終電まで時間があるとはいえ、とうに日は暮れている。夜に女一人を呼び出す男があるだろうか。いや、冴ならやりそうなのだけど。

「言ったら来てくれるのか」

 はっきりと言われたわけではない。だから「行く」と言ったら私が冴に会いたがっているようになってしまう。あくまで選択を私に委ねる冴が憎い。

「身の安全が保障されればね」

 結果として私は可愛くない答えを返した。冴は「じゃあいい」と言ったが、電話を切る気はさらさらないようだっま。結局、冴は夜に寂しくなって声を聞きたくなっただけなのだろう。ならば素直にそう言えばいいのに、怖い夢を見たと嘘をつく冴の不器用さが愛おしくなった。冴の睡眠時刻になるまで、この電話は切らずにいよう。