▼ ▲ ▼

 侑にしては珍しく、昼休みに机へ突っ伏して動かずにいた。普段はクラスメイトやバレー部の友人とふざけ合っているというのに、どうしたものだろうか。その瞳は落ち込んでいるというより、迷っているように見える。私は隣からそっと侑を覗き込んだ。

「もしかして恋の悩み?」

 侑は一度私を見た後、黙って視線を逸らす。普段なら「そんなんちゃうわアホ!」くらい言いそうなものだ。これは核心を突いてしまったのだろうか。

「え? ほんまなん? 侑でも恋に悩むんや!」

 たちまち声色が明るくなる私に漸く侑が突っ込んだ。

「うるさ! 俺が恋に悩んだらあかんのか!」

 侑は遂に恋の悩みだと認めたのである。侑が体の関係だけではなく恋をするだけでも驚きなのに、さらには悩むのだろうか。侑ほどのモテる男なら、すぐに虜にできそうなものなのに。

「いや、だって侑やん? 雰囲気に任せてキスしてとけば侑だからで許されるやろ」

 侑はモテるだけではなく、自分勝手なキャラクターを構築しつつある。女の子に限らず周りを振り回すのは当たり前で、何をしても侑の得意げな顔を見れば許されてしまうのだ。侑に怒られるかと思いきや、侑は視線を鋭くして一言口にした。

「言ったな」
「え?」

 その次の瞬間、侑の体が伸びてきて唇を奪われる。私は侑の好きな人が私だったのかという驚きより先に、昼休みの教室でキスをすることへの抵抗を感じていた。周りからは浮かれたカップル扱いされてしまうかもしれないが、そもそも私達はカップルではない。これもまた「侑だから」で許されてしまうのだろうか。

「許されるんやろ?」

 侑の拗ねたような顔を見ていたら、教室でキスをしたことへ文句をつける気もなくなってしまった。これは私ももう、侑に流されているのかもしれない。