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 体育祭実行委員会に配置された。基本祭り好きであり、血の気の盛んな人が選出されるが、一年生のクラスにおいてはまだ感覚が掴めなかったのだろう。適当に運動神経がいいから、という理由でバレー部の影山君が選出されたようだった。彼が場に馴染まない素朴な青年であったこともあり、私は先輩として影山君を気にかけた。会議で困ったことがあればフォローしたし、プリントを渡しに教室まで行くこともあった。全く下心がなかったかと言えば嘘になる。影山君は、綺麗な顔をしているのだ。

「あとは今日の放課後決めるんだけど、影山君部活だよね? 明日までに渡さないといけないものあるから放課後待ってようか」

 どちらにしろ私は委員会があるのでバレー部の部活が終わる頃まで学校に残っていることだろう。軽い気持ちの申し出だったのだが、異性の帰りを待つということは影山君にとって特別な響きであるらしかった。

「やめてください。 好きになったらどうするんですか」

 大真面目に言ってのける影山君に拍子抜けしてから、私もまた正直に返す。

「そのつもりでやってるんだよ」

 すると影山君は何事もなかったかのような顔をして、「合意の上ならいいです」とプリントに目を通した。折角男女らしい雰囲気になっていたというのに、ここで終わるのかと思うと勿体ない気持ちがある。

「やっても好きになるかはわからないけどね」

 負け惜しみのように私が言うと、影山君は顔を上げて叫んだ。

「俺は案外単純です! あと女子の無防備な所にグッときます!」

 突然の大声に驚きながらも、私は「こう?」も無防備なポーズをとってみせる。影山君は相変わらず大真面目な顔で肯定した。

「はい、最高です!」

 私達の横を通りすがった一年生が「これもう最初から好きだったデショ」と呆れたような声を出す。側から見たら、私達は相当間抜けに見えるのかもしれない。だが影山君という大間抜け野郎に付き合うのもまた、悪くない。