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 折角一緒にお昼を食べる約束をしたというのに、聖臣は言葉少なだった。元から聖臣はよく喋る方ではないのだが、今日は特別だ。私は聖臣に何かあったことを察した。聖臣は機嫌で人を振り回そうという人間ではないが、親しい人の前では意図せず感情を漏らしてしまうのだ。

「どうしたの?」

 私が優しく聞くと、聖臣はぽつりと答えた。

「今日、告白された」

 こうして答えてもらえるだけでも、私は随分聖臣に気を許されたものだと思う。少なくとも私は聖臣に一線を引かれていないのだ。彼女なのに、いや彼女だからこそ、告白されたということは言いづらいだろう。世間一般の恋人同士のようにどうしてすぐに言ってくれなかったのかとは責める気になれなかった。聖臣は告白されたことを酷く気にかけているようだからだ。いい意味ではなく、悪い意味で。

「世界に女がお前一人だったらいいのに」

 聖臣は元々、恋愛があまり得意ではなかった。私と付き合うのでさえ一苦労したのだ。特に嫌うのは、ミーハー心で近寄ってくる女子をフる瞬間だった。女子は泣くし、傷付くし、被害者ぶる。聖臣はそういった行動に怒るのではなく、疲れてしまうようだった。バレー部のエースという名目だけで近寄ってくる女など気にしなければいいのに、聖臣は異性の告白を断る気まずさに耐え切れないのだ。私は聖臣の手の甲を撫でながら、宥めるように言った。

「そしたら子供ができないよ」
「俺とお前とその子供で世界を終わらせる。俺達が幸せに暮らせたらそれでいい」

 私は思わず笑い出してしまう。言っていることは独裁者のようなのに、実際の聖臣は酷く繊細だ。このちぐはぐさが、聖臣の優しさを示す指標のようで愛おしいと思う。

「全部私のせいにしていいから、フってきなよ」

 私は聖臣の手を握りしめて言う。

「ああ」

 聖臣は私の手を握り返した後、少し経ってまた弁当を食べ始めた。聖臣が傷付かずに済む世界に行きたいけれど、多分それはないのだろう。