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 お付き合いできない旨を申し出ると、彼は不満を露わにした。

「僕のことフるって相当だよ。君今後一切恋愛しないつもり?」

 彼――五条さんが子供じみた人だということはわかっていたけれど、フラれた後に恨み節を並べるような人ではないと思っていた。何を言われたところで私の気持ちが変わるわけではない。私は五条さんのような有名人とは付き合えないのだ。

「恋愛はしますが五条さんとはしません」

 断固として言い切るが、五条さんは引き下がらない。

「じゃあ僕以上にいい男がいると思う?」
「強さではいないでしょうね」

 これは認めるほかない。むしろ私は五条さんがいい男すぎるからこそ敬遠しているのだ。五条さんだって、他の女にそうされた経験があるのではないだろうか。逆に媚びてくる女ばかりだったかもしれないけれど。

 私の気持ちも知らず、五条さんは軽い調子で言った。

「試しに付き合ってみなよ、そうしたら他の男に戻れなくなるからさ」

 あまりに簡単に言ってのけるものだから、思わず反感を覚える。それがどれだけ大変なことかわかっているのだろうか。

「五条さんと別れた後誰とも付き合えなくなるのが怖いんです!」

 遂に私は恥も外聞も捨てて叫び出した。内心で私が五条さんを高く評価していることが知られてしまうが、五条さんと付き合って戻れなくなるよりはいいだろう。軽薄なようでいて自分の力の強大さは悟っている五条さんならわかってくれるかもしれない。ところが、五条さんはあっけらかんと言い放った。

「なんだ、そんなこと?」
「そんなことって……」

 私は言葉をなくす。五条さんには大した問題でなくとも、私にとっては一大事だ。五条さんと付き合って、並のカップルのように別れたとして、その後一生独身になったとしたら誰が責任をとってくれるのだろう。多分、五条さんはとってくれない。

「なら僕と一生別れなければいいんだよ」

 やはり簡単に五条さんが言うものだから、私は五条さんを睨む。

「今プロポーズしました?」
「したかもね」

 こういった軽薄さが嫌いだ。人にアプローチする前に、自分が男としてどれだけ優れているかを考えてほしい。きっと告白もプロポーズも簡単な気持ちでやっているのだろう。深刻に将来のことまで考えている私の気持ちとはきっと釣り合わない。そう思っているのに、何故だか五条さんに惹かれている私がいた。恐らく、「五条さんと付き合ったら戻れなくなるから」などと考えている時点で答えはわかりきっていたのだろう。