▼ ▲ ▼

「もうすぐ修学旅行だね」

 自習となった六限目の最中、私はカレンダーを見て呟いた。プリントは既に終わっており、教室はお喋りタイムとなっている。中でも話題は修学旅行だった。我が校は十二月に沖縄へ行くのだ。既に班決めも終わり、後は当日を残すのみである。

 隣の席の昼神君は顔を上げると、想像するかのように頬杖をついた。

「そうしたらきっと夜は好きな女子の話だなぁ」

 私は驚いた。高校生の男子も女子のような話をするのだということと、昼神君もそれに参加するのかということにである。昼神君は、いい意味で高校生には見えない。歳だけ若いままでいて、ふとした時に見せる価値観が成熟した大人のそれなのである。昼神君は唐突にこちらを見ると、読めない瞳で語りかけた。

「その話になったら、俺の好きな人は名前ちゃんってことにしていい?」
「な、何で」

 思わず私は吃る。何故私が出てくるのだろうか。いや男子の浮いた話に一回も名前が出なかったらそれはそれで悲しいのだけど、昼神君の口から出るとなると話はまた別である。

「だって名前ちゃんが一番自然でしょ? 俺が好きになる人として」

 昼神君の言葉を胸で噛み締める。昼神君は、こういうところがあるから変わって見えるのだ。普通の男子なら照れてしまいそうなこと――相手に誤解を与えるようなことを、平気で言ってしまう。それに動揺するようならこちらの負けだ。直接好意を決定づける言葉は言わずに、「どうしたの?」とからかうように言うに違いない。

「昼神君は、周りに私が好きだと思われて困らないの」
「全く」

 私のせめてもの抵抗も、意味なくなぎ倒されてしまう。私がどれほど恋愛経験を身に付けても昼神君に勝てる気がしない。こういった時どうすればいいか、まるでわからなかった。

「……なら、いいよ」

 仕方なく私が言うと、昼神君は「よかった」と言って机に向き直った。とうにプリントは終わっているだろうに何かと覗き込むと、次のテストの範囲をまとめていた。私は何度人生をやり直しても昼神君に勝てる気がしない。