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「おい」

 長いすれ違いの末、佐久早は遂に名前を捕まえた。名前はこのところ佐久早を避けていたのだ。当然気付いた佐久早は、そのままで済ませるつもりない。何故名前が佐久早を避けるのか、名前は佐久早を嫌いになったのか、聞かないと気が済まないのだ。

 名前を見下ろしているだけで、佐久早の「何があった」という圧が伝わったのだろう。名前は気まずそうに顔を逸らしながらも、ぽつぼつと語り始めた。

「わ、私は佐久早のこと好きなのに……フラれたらどうしようって」

 佐久早は掴んでいた腕を離し、長いため息を吐いた。名前の悩みがくだらないとでも言うかのように。名前は気付かない様子で、未だ居心地が悪そうにしていた。

「あのな、お前の気持ちはバレバレだ」

 佐久早が口を開く。その言葉に、名前の肩が跳ねた。承知済みのことでも、本人に言われるのでは違うのだろう。

「そんでバレバレなのに俺は知らないふりをしてやった」

 話の方向が変わり始める。続きを求めるように佐久早を見上げた名前を、佐久早は真っ直ぐに見つめた。

「これで察しろよ」

 肝心なことは言わない、言うなら名前に言わせる、佐久早のずるい術である。普通の女子には通じるのだろうが、何せ名前は片思いが本人にバレていても気にしない質なのだ。緊張した面持ちで言葉を紡ぐ。

「つまり脈がないってこと……?」
「何でそうなる」

 佐久早は思わず突っ込んだ。名前の察しの悪さに苛々する。

「つまり俺の気持ちはお前の思う通りってことだ」
「私の思う通りって何?」

 佐久早は眉根を寄せながら、名前が天然でこれをやっているのか、それとも佐久早に言わせようとしているのかということに悩んだ。佐久早から告白することは佐久早のプライドが許さない。だが、それで名前に伝わらなかったとしたら。佐久早が自分の殻を破るまで、あと少し。