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「今度影山君の試合見に行こうかなぁ」

 それは何の気もない発言だった。影山君と仲がいいと自負している私は、当然のように受け入れてもらえると信じていたのだ。だが影山君は冷静だった。

「先輩は試合観に来ないでください」

 感情の読めない声で言われ、私は息を呑む。驚いて影山君を見ると、彼も私の感情の変化を悟ったらしかった。気まずそうに俯いてから、ぽつりぽつりと話し出す。

「俺、中学の頃部活で揉めたことがあって、チームメイトとか試合見た人から嫌われてました。今はましになってると思うけど、正直直ってるかわかんねぇっつーか」

 他に誤魔化しようはあるだろうに、正直に全てを話してしまうのが影山君らしかった。影山君は重い口を一度閉じ、「とにかく、」とまた開く。

「先輩には嫌われたくないんです。あんたには俺を好きでいてほしい」

 言われていることは嬉しい。だが影山君と私の間で、認識の齟齬がある気がした。影山君の中で私は彼を好きなことになっているのだ。

「私、好きだなんて一言も言ってないけど……」

 そっと語りかけると、影山君はきょとんとして首を傾げた。

「好きじゃないんですか?」

 咄嗟に焦る気持ちになってしまうのは、恋愛への照れだろうか。それとも、気持ちを見透かされたと思っているのだろうか。

「それを言うなら嫌われたくないっていう影山君の方が私のこと好きでしょ!」
「よくわかりません」

 影山君は通常運転なのに、私だけが空回りしている。私はわざとらしく咳払いすると、話のまとめにかかった。

「じゃあ私達お互いに好きってことで!」

 影山君の気持ちにかこつけて、私の告白も済ませてしまおうとしたのだ。だが影山君はそれを許さなかった。

「まだ先輩の口から好きって聞いてません」

 気が抜けているようでいて目敏い影山君に唇を噛む。影山君に誤魔化しは効かないのだ。仕方なく私は口を開いた。

「……影山君、好きだよ」
「ありがとうございます」

 結局私は影山君の試合を観戦する許可を貰えないままだし、告白の返事すらされていない。私より恋愛下手だと思っていた影山君に転がされている事実に一人悔しくなった。