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「ただいま〜」
支部の扉を開けると、鋭い視線が私を捉えた。玉狛支部で預かっている捕虜、ヒュースだ。彼は自分一人で出かけることはできないため、私のことを恨みがましく思っていることだろう。
「小南とデートしてきた」
わざとらしくヒュースに言ってみせる。ヒュースは羨むかと思いきや、意外な言葉を投げかけた。
「デートとは何だ」
ヒュースは玄界に来たばかりだから、あまり俗語を知らないのかもしれない。私はこの場合の正解を答える。
「二人で仲良くお出かけするってことだよ」
すると、ヒュースは躊躇いなく言った。
「じゃあオレも連れて行け」
私は目を瞬いた後、堪えきれずに笑い出す。その様子をヒュースは反感を抱いたような顔で見つめていた。
「いいよ、行こうか。デート」
確かに、女子二人で出かけるような場合も「デート」という言葉は使う。だが本来は男女の逢瀬という意味なのだ。異性同士である私とヒュースが使ったら、限りなくそちらの意味へ近くなってしまう。
とはいえ、ヒュースに全てを教える必要はない。折角ヒュースと仲良くなる機会なのだ。未だに警戒されているのは悲しいし、これで懐かれたら小南に自慢してやろう。私がヒュースとのデートから帰ると、玉狛支部にはほぼ全員揃っていた。
「どこに行ってたんだ?」
レイジさんの問いかけに、ヒュースは迷いなく返す。
「デートだ」
その瞬間、場の全員が驚くのがわかった。私が抑える前にヒュースに答えられてしまったのだから仕方ない。ヒュースはディスコミュニケーションに気付いていないようで、平然とソファに座った。その背中へ、烏丸君が語りかける。
「デートっていうのは、好き合ってる男女がすることだぞ」
周りの雰囲気に、それが嘘でないことを察したのだろう。ヒュースは目を丸くすると、次の瞬間には私を捉えた。
「貴様……! 騙したな!」
確かにヒュースの言い分もわかる。だが「デート」には二つの意味合いがあるのだ。
「ああいう意味でも使うって! それともヒュース私のこと好きじゃなかった?」
私が必死に言い訳すると、ヒュースは相変わらず凛とした態度を崩さずに言った。
「好きだ! 何を言わせる気だ!」
その勢いのよさに思わず笑ってしまう。ヒュースが好きだと言っているのは友達としての好きなのだろうが、これでは異性として言っているみたいだ。私が笑うのでさらにヒュースの機嫌は悪くなり、収拾のつかなさにレイジさんがため息を吐いた。
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