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 新年が明け学校が始まった。環境委員会に所属する私は通常よりも早く登校して雪かきをすることになっていた。眠い、寒い、疲れるの三拍子が揃っていても、喋りながらやっていれば不思議と進むものだ。私は寡黙な後輩へ話を振った。

「影山君お正月何した?」

 影山君とは委員会で話すようになったが、未だにプライベートは謎である。彼の話すことはほぼ全てバレーに関することなので、バレーをしていない時何をしているのかまるで想像つかない。影山君もお正月ならばお年玉を貰ったり年相応らしい姿を見せるのだろうか。影山君は雪かき機を潜らせながら答えた。

「ランニングして、筋トレして部活して終わりです」

 あまりにも素朴な答えに、私は失礼を考慮する暇もなく声に出した。

「えっ? お正月らしいこと何もしてないの? それじゃ普段と変わらないじゃん!」

 バレーの天才、影山飛雄は、正月すら休まらないのだろうか。私としては同情したつもりだったのだが、影山君は反感を抱いたように顔を上げた。

「お正月らしいことって何ですか」

 私は雪かきをする手を止め、考える。

「うーん、そう言われると思いつかないけど、特別なことだよ」

 今時凧揚げや書初めをする人もいないだろうし、年末年始のテレビ番組をこたつで見るというのもなんだか違う。私は自分で言っておいて正解を持たなかったのだ。そんな私を責めるように、影山君が近付いた。

「じゃあ苗字さんが特別にしてください」
「え?」

 振り返れば影山君がすぐ後ろにいて、唇が重なる。影山君はすぐに離れると、何事もなかったかのように雪かきを再開した。私は唇に手を触れたまま立ち尽くす。影山君にとって、私とキスをすることは特別なのだろうか。冷たい体の中で、唇だけが熱い。