▼ ▲ ▼

※死ネタ

 人の絶望する顔を見ることが好きだった。力を手にしてからは、誰のものだって見られる。強者、権力者、国王でさえも。おれはそれを座って眺めるのだ。おれと、おれの海賊団があれば、おれは二度と絶望しなくて済む。だからおれは自分が作った、空虚な「ファミリー」を守ろうと必死なのだ。

 とは心の奥底にしまっている感情ではあるが、時折ひょっこりと顔を出す。その度におれは新たな奴隷を作った。シュガーを迎えてからというものの、奴隷は酷く愛らしい姿になった。おもちゃになった奴らは、必死の形相をボタンや縫い糸で隠されているのだ。一体奴らはどんな顔をしているのだろう? 恋人がおもちゃにされたことを知ったら、能天気に街を歩いている奴らはどんな顔をするのだろう? おれはきっと、その時美しい女を片手に酒を飲んでいるに違いない。全てのものが、おれを楽しませるエンターテイメントなのだ。

 おれはこの街で一番の女を抱き寄せた。各地で女を侍らせているが、ドレスローザの女は悪くない。中でも今熱を上げている女は、今までで一番いい女に思えた。愛などとは対極にあるおれも、漸く愛を手にすることができるのだろうか。海賊団以外の者を身内と認めても、いいのだろうか。おれの心が動くのは、恐らく不安になっているからだ。麦わら。ロー。あいつらがドレスローザに侵入してきたから。でも大丈夫、おれのファミリーがいれば、きっと何とかなる――。

「シュガーが気絶しちまったァ〜!!」

 各地で響く絶叫。鳴り止まない電伝虫。信じたくないけれど、一番の証拠がおれの頭の中にいる。

「名前、お前、生きてたのか……」

 おれは力なく名前の名を呼んだ。名前は現在生きているわけではない。シュガーの能力によって、おれの記憶から抹消されていたのだ。おれが名前を、殺したから。

 ロシナンテの死には耐えられても、名前の死には耐えられなかった。だからおれは、名前の死体をシュガーに差し出したのだ。まるで神に生贄を捧げる、哀れな神父のように。

 忘れていた。忘れたかった。多分、思い出さない方がよかった。名前はおれの人生に必要だったから。おれはシュガーの能力にかけられて、名前を忘れ、他の女に熱を上げていたのだ。なんと間抜けなことだろう。おれは頭を抱え、絶叫が鳴り止まない中で笑った。恋人がおもちゃにされたことを思い出した奴は、今こんな顔をしている。欲しかったものがグラスに歪んで映った。小さく開けた口から、は、と掠れたような声が出た。