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 昼休みの時間、私は友達と机を並べて話に花を咲かせる。その殆どは恋愛関係で、他の友達が彼氏と何をしたどこへ行ったと話しているのに対し、私は佐久早がどれだけ格好いいかを語っていた。普段は聞いてくれる友達なのだが、今日ばかりは進展しない私達に痺れを切らしたのだろう。弁当をつつきながら、平然と口にした。

「そんなに好きなら告白すれば」
「え……でも……」

 ありきたりな答えだが、私は告白して今の関係が壊れることが怖い。壊れるほどのものを築けているのかはわからないけれど、私がつきまとうと迷惑そうにしつつもどこか上機嫌そうな佐久早を見られなくなるのはつらい。

「どうしたものかなー……」

 友達が連れ立ってトイレに行った後、私は机に突っ伏す。すると向かいに大きな影が降りた。

「そんなに悩むならやめれば」
「え!?」

 私は咄嗟に顔を上げる。そこにいたのは佐久早だった。空いた席に腰を下ろし、私を見つめている。佐久早は感情の読めない瞳で私を見ると、同じ言葉を繰り返した。

「だから俺を好きなのをやめれば」

 片思い相手本人に、好きであることをやめるように言われる。世間一般的に見て窮地なのかもしれないが、困った時は全力で抵抗するのが私の長所だった。

「ダメダメダメ! 佐久早を好きなのが私の生きがいなんだから」

 反論すると、佐久早は「そうかよ」と言って窓の外を見た。その横顔は心なしか照れているように見える。私は恐る恐る佐久早に尋ねた。

「佐久早は私が好きじゃなくなってもいいの?」

 佐久早は動きを止め、思い悩むような表情になる。佐久早が私の好意を迷惑に思っているのではないかと気にしたことはあったけれど、佐久早に私の気持ちが必要なのではないかと思ったことはなかった。だがこの様子を見ると、あながち間違いではないのかもしれない。

「嫌だけど、お前が毎日普通に過ごせた方がいい」

 その言葉からは、佐久早が私を思い遣ってくれているということが感じられた。私が片思いに悩むそぶりを見せたから、気を遣ってくれたのだろう。佐久早が私を見てくれていたことを少し意外に感じる。私は告白など行動に移さなければ、不幸になることなんてないのだ。

「佐久早がいれば私は幸せだからいいの!」

 私が叫ぶと、佐久早は可笑しそうに頬杖をついた。

「安上がりな奴」

 そう言いつつも、佐久早の表情はどこか嬉しそうに見える。私が佐久早を好きでいることで、佐久早も私も幸せなのだ。ならばずっとこの関係性が続けばいいと思った。