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「好きです」

 私にとっては一世一代の告白だったのだけれど、目の前の彼はいい顔をしなかった。眉根を寄せ、まるで議論の場であるかのように自論を展開する。

「理解できないな。お前が俺を好きになることに何のメリットがある」

 彼――牛島君は、ノーすら言ってくれなかったのだ。恐らく恋愛自体にいい印象がないのだろう。牛島君は私の気持ちを否定したいように思えた。その態度には感じるものがある。牛島君は恋愛を履き違えているのだ。牛島君が経験したことがないだけで、恋愛とはもっと素晴らしいことだというのに。

「メリットとかそういうことじゃなくて……好きっていうのは意図してなるものじゃないし、相手のことを考えるだけで幸せになれたり、幸せにしたいって思うものなの! 牛島君のそういう考えは間違ってる」

 少し前に告白したことも忘れ、私は自分の考えをぶつけた。結果として牛島君に嫌われてもいい。牛島君が恋愛をよく思えないまま幸せを逃したとしたら、それは勿体ないことだろう。覚悟して牛島君を見上げると、牛島君は何故か照れていた。

「……何で照れてるの?」

 冷静に尋ねると、牛島君は手を口元に当てる。

「今、言っただろう。俺のことを考えるだけで幸せになったり、俺を幸せにしたいと」

 思わず顔が熱くなる。確かに似たようなことは言ったが、牛島君の名前は出していないはずだ。

「言ったけど、それは一般論っていうか」

 私が反論すると、丸め込むように牛島君が鋭い言葉を発した。

「俺のことを好きなのではないのか?」

 私は言葉に詰まる。先程まで私の気持ちを理解できないと言っていたくせに、どういう風の吹き回しだろうか。そうやって気持ちだけ搾取するところがずるいと思いながらも、私は抗えない。

「……好きです」

 私が答えると、牛島君は顔を綻ばせた。

「俺は今、少し幸せだ」

 呆けたまま牛島君を見上げる。告白に成功したのかはわからない。だが、牛島君に恋愛の良さを教えるという点では、成功したのかもしれない。果たしてそれがどう私の利に繋がるかわからないが、嬉しいことには変わりないのだった。