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 同じクラスで付き合うな、とは共学の宿命である。別れた時に気まずくなるからだ。一時の熱ゆえにそのルールを無視して付き合ってしまう者もいるが、大抵は上手くやれていた。私もその内の一人だった。別れたという噂が広まって間もなく、まるで付き合う以前のように話す私達を見て不思議に思ったのだろう。意味ありげに会話を止めた友人達を見て、私は侑と体を近付けた。

「私と侑は友達に戻った」

 別れる際、喧嘩などはしていない。私達は円満に元の関係に戻れたのである。しかし侑はそう思っていないらしかった。

「ハァ!?」

 心の底から不満であるという声を残した後、私を引っ張って教室の隅へ連れて行く。そんなことをしては私達がまだ特別な間柄のようではないか。友人からの視線を痛いほどに受けながら、私は侑と向き合った。

「あんな、一回付き合ってた男女が何のしがらみもなく友達やれるなんて無理やねん。どっちかに下心はあるんやから」

 侑が私に恋愛経験が乏しいと決めつけて講釈を垂れるのはいつものことである。だが、私達のことは私達自身で決めるべきではないだろうか。

「侑下心あるん?」

 純粋に疑問に思って聞くと、速すぎるくらいの答えが返ってきた。

「ちゃうわ! 俺にはないけど、もう俺らお友達なんて無理やろって話や」

 やたらと「俺には」と強調するが、私にだってない。ならば気を遣う必要はないはずだ。

「私もう侑のこと何とも思ってへんから大丈夫やで」
「引きずれやそこは! 無理なもんは無理なんや!」

 私は至って冷静なのに、侑は声を荒げていた。何も思っていない人相手に、何故そこまで必死になるのだろう。

「侑も私のことなんて何とも思ってないやろ?」

 私が聞くと、侑は黙り込んでしまった。咄嗟に私は一つの可能性を察する。

「ちょ、そこはなんか言えや。気まずいやんか」

 すると侑は悔しそうな顔をして「うっさいわ!」と叫んだ。残念ながら、友達に戻るのはまだ難しそうだ。