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 最近影山君が落ち込んでいる様子である。落ち込んでいる、というより落ち着かないといった方が正しいだろうか。練習中は機敏に動いているのに、休憩時間や帰りになると周りを気にしているようである。マネージャーとして、部内の雰囲気を円滑に保つのも役目の一つだ。年上かつ異性で話しづらいだろうということは棚に置き、私は影山君にそれとなく尋ねてみることにした。

「最近何かあった?」

 すると影山君はためらうこともせず話す。

「苗字さんを好きだと思ってからどう過ごせばいいのかわからなくて」

 私は驚くより先に、呆れに見舞われた。

「それ私に言ったら解決しちゃうじゃん……」

 恋の悩みとは、信頼のできる友達など相手以外に話すものである。恋慕っている本人に相談する人がいるだろうか。いや、影山君には相談というつもりもないかもしれないけれど。

「普通本人に言う?」

 返事をするでもなく私が尋ねると、影山君もまた質問を返した。

「言ったところで、俺のドキドキとか不安が治るわけではないですよね」

 私は口を噤む。影山君が何を言いたいのかわからない。影山君は私の意を理解したように言葉を足した。

「苗字さんは、解決してくれるんですか?」

 漸く影山君が何を言っているのか合点がいった。影山君は、私が「解決しちゃうじゃん」と言ったことに対して物申しているのだ。

「私は付き合うだけでドキドキの解決はできない!」

 解決とは好きだと打ち明けられたら付き合う方向に話が進むという意味で、影山君が恐らく人生で初めて感じているであろう恋の不安やときめきを除去できるわけではないのだ。というか、付き合うならそういった感情は持ったままでいてほしい。恋のときめきを人に解決してもらえると思っているところが、なんとも恋愛に不慣れな影山君らしかった。

 私は結構な勇気を出して先程の発言をしたのだけど、影山君の方はけろりとした表情をしている。

「えっ付き合ってくれるんスか」

 そうだ。影山君は恋のときめきの治療を求めていて、付き合う付き合わないの話はしていなかったのだ。それを私が勝手に勘違いして、天狗のように交際を持ちかけたと。告白まがいのようなことをした影山君より浮かれているようで恥ずかしい。しかしこれだけは言わせてほしい。

「告白するつもりじゃないなら本人に言うな!」

 影山君がこの先他の人と恋愛をするところは想像したくないけれど、一般論として。私は叫んだ後、まるで告白した側のように走って逃げた。