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 近所の神社に行くと、お賽銭を入れて私は手を合わせた。

「今年も冴と一緒にいられますように」

 海外を拠点としている冴と一緒に過ごすことは難しいのだが、せめて連絡を取り合ったり、仲睦まじく過ごしたい。固く閉じた目を開けようかと思った頃、不意に後ろから声がした。

「いや、それ俺に言えよ」

 振り向くと、冴がポケットに手を突っ込んだまま立っている。私は目を丸くして叫んだ。

「冴!? 何でここに」
「正月だから帰省」

 冴は怠そうに言うと、小銭を適当に取り出して賽銭箱に投げ入れた。ふと見えたのはユーロだった気がするのだが、冴はそもそも神様を信じていなさそうなのでどうでもいいのかもしれない。

「このバカ女が赤点取りませんように」
「ちょっと! 何それ!」

 馬鹿にされた気分で私は声を荒げる。新年のお願い事がそれとは、私のことも神様のことも舐めている。

「もう少しなんかあるでしょ! サッカーのこととか、私のこととか」

 後半に向かうにつれて声が小さくなった。私が願うのは冴とのことなのに、冴はどうでもいいのだろうか。冴はまたポケットに手を突っ込むと、神様に背中を向けた。

「サッカーのことは自分で叶える」

 なんとも冴らしい、真面目で自信家な台詞だ。あともう一つについての言及を待つと、冴はなんてことないように歩き出した。

「お前とのことも、神様なんかに頼らなくても俺が叶えてやる」

 私の体温が一気に上昇する。私は階段を降りて、冴の腕に抱き付いた。

「やった!」
「まずは補習にならずに夏休み絶対来い」

 釘を刺すのは冴なりの照れ隠しと思うことにする。降って湧いた僥倖に、私は目一杯浮かれた。