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 それは新しいカップルが誕生し、教室がどことなく浮かれている時だった。

「お前は俺を好きになるなよ」

 私は頬杖をついて座る佐久早を見上げる。佐久早と席が近くになって暫く経った。佐久早とは仲が良い、と自信を持って言えると思う。だからこそ佐久早は危惧したのかもしれない。

「何で?」

 私が問うと、佐久早は目線をどこか遠くにやったまま答えた。

「恋愛持ち込まれたらゴタゴタすんだろ。お前と気軽に話せないのは困る」

 私は佐久早の言葉を咀嚼する。佐久早が今の私との仲を心地よく思ってくれているのは確からしかった。恋愛が入ることで、ぎこちなくなるのが嫌なのだろう。だがそれはまるで恋する乙女の悩みではないか。

「それって私のこと好きなんじゃない?」

 私の言葉に、佐久早は眉を吊り上げて「は?」と言った。

「私と離れたくないってことなんでしょ? 佐久早は私が必要なんじゃん」

 佐久早は自分の感情に鈍いところがある。それに明言はせずに私への気持ちを匂わせるところも気に入らない。攻め入ったことを聞けば、佐久早は慌てたそぶりを見せた。

「待て、そこまで言ってない」
「人に恋愛するなとか言っておいて!」

 純情を弄ぶのは罪である。さらに私が責めると、佐久早は焦ったような顔をした。

「俺はお前といたいだけだ!」

 今、まるで恋人のようなことを言った自覚はあるのだろうか。あと少し踏み入れば付き合えたのかもしれないけれど、佐久早の言葉で満足してしまった私は言及をやめたのだった。