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 それは名前が侑にダメ出しをした時のことだった。侑はいい意味でも悪い意味でも自由奔放なため、長らく一緒にいれば自ずと欠点が見えてくるのだ。侑は素直に聞き入れるでもなく、堂々と開き直った。

「お前、俺のこと好きなら俺の欠点全部目を瞑るくらいしろや! 俺を好きな奴はみーんなそうしてたで?」

 言わずもがな、侑は女子に人気である。侑に少し悪い所があろうが、侑と付き合えるならと歴代の彼女はみんな見て見ぬふりをしたのだ。過去の女と比べたのは名前を怒らせてしまうだろうか。侑が内心心配しながら名前を覗き込むと、名前は至って普段通りの顔で言い放った。

「侑を好きだからこれからも一緒にいるために欠点と向き合いたいんやろが!」

 そのあまりに堂々とした様子に、侑は思わず突っ込みを入れる。

「おま、ロマンチストか! 何言うとんねん!」

 侑とて名前のことは好きだ。だがまだ将来を誓うような年齢ではないと思っている。だから臆せず未来のことを口にした名前が大人びて見えたのだ。

「別に大したことないやろ」
「お前のくせにむかつくわ」

 侑が名前のことを見下しているのはいつものことだった。侑の中で名前は純粋に侑を追いかけている女の子そのものなのだ。

「侑の方が恋愛経験のわりに度胸ないだけちゃう?」

 侑より恋愛経験は少ないだろうに、名前は挑戦的に言い放った。これには侑も黙っていられない。

「何やと!? 言ったるわ! お前のことが世界で一番……」

 威勢がよかったのは最初だけで、段々声が尻すぼみになっていく。終いには黙り込み、机の上に項垂れた。

「あかん、本気やと言えんのやな」

 侑としては今まで本気ではない愛の言葉を囁いていた自白のつもりだったのだが、名前はこれに怒らなかった。むしろ機嫌を良くした様子だ。侑は格好つかなかったが、名前が喜んだならまあいいか、と愛の言葉を先送りにした。