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「牛島さんって付き合ってもすぐには手出さなそうですよね」

 ただの仕事仲間である異性に踏み込んだ発言をしたのは、私が酔っているからなのだろう。契約選手だというのに部署の飲み会に顔を出した牛島さんは、顰め顔でこちらを見た。

「そんなことはない。今ここで証明してやる」

 オフィスワークはあまりしないのに威厳を漂わせているのは牛島さんの人格のなす技だろう。私は年数で言えば後輩にあたるので文句はない。とはいえ、牛島さんは有言実行すぎるきらいがある。「今ここで」証明するなら、相手は私ということにならないだろうか。

「あの、私達って付き合ってませんよね?」

 念のため確認すると、牛島さんはビール片手に答えた。

「俺はお前が好きだ。だから問題ない」
「問題ありすぎなんですけど!」

 何故このような場で告白を済ませてしまうのだろう。私も酔っているので牛島さんに告白されたという実感がいまいち湧かない。多分牛島さんも相当酔っているのだろう。

「俺が好きな相手に対して我慢しないという証明にはなるだろう」

 悔しいが牛島さんの理論は通っているので、私は負け惜しみを口にする。

「証明してどうするんですか」

 牛島さんは私を見下ろすと、ふと口元を緩めた。

「お前こそ動揺しないな、まあいい」

 牛島さんの手が私の耳元に伸びる。髪を耳にかけられ、露わになった耳の温度が上がった気がした。

「その顔、たっぷり狂わせてやる」

 牛島さんに夢中になっていた私は気付かなかった。これが部署全体の飲み会であり、同僚も上司も周りにいるということに。私達は酔っ払って、自分達の世界に入り込んでいたのだ。多分明日の私は後悔するのだろうけれど、今は牛島さんに溺れていたかった。