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 それはスカラビアに招かれて片付けを手伝っている時のことだった。明日の予定を思い出し、私は口にしたのだ。「イデア先輩に呼ばれてるんだった」と。するとジャミル先輩は一度手を止めた後、落ち着いた声色で言った。

「君は俺を好きなんだからあまりそういうことは言わない方がいい」

 私は一瞬何を言われたのかわからなかった。ジャミル先輩の中では私がジャミル先輩を好きということになっていて、恋愛の勝率を下げるなという意味だろうか。だが私はそのようなことは何も言っていないのである。

「好きじゃないですよ」

 私が言うと、ジャミル先輩は皿洗いをやめて大袈裟に叫んだ。

「は!? じゃあさっきのは何だったんだ!」

 私は冷静に先程のことを思い出す。宴も終わりに近付き、静かに会話を楽しんでいた時、私はジャミル先輩に言った気がする。「ジャミル先輩の隣は安心する」と。

「あれはお兄ちゃんみたいだなと思って」
「だったらそう言え! クソッまんまと騙された!」

 私達の間には確かな温度差があった。私が冷静で、ジャミル先輩が興奮しているなどおかしな話だ。ジャミル先輩はそれほどまでに私の恋愛が気になるのだろうか。

「別にどうでもいいんじゃないですか?」

 私が尋ねると、ジャミル先輩はこちらを振り向いて言った。

「どうでもいいはずないだろ!」

 その真剣さからは察するものがあったのだが、面倒くさくなりそうなので今は言わないでおく。ジャミル先輩が言いたくなったら、その時がベストなのだ。私はジャミル先輩と並んで皿洗いに勤しんだ。ジャミル先輩が私を好きだと思うと、なんとも妙な光景だ。