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 元から聖臣のバレーボールに対する面を好きになったわけではなかった。バレーボールは聖臣を構成するほんの一部分、と思っていたのだ。だが世間一般で騒がれれば話は違う。折角自分の彼氏なのだから、その勇姿くらい見てもいいと思ったのだ。

「試合観に行こうかな」

 二人で街道を歩いている時、ふと口にすると聖臣は喜びも驚きもしなかった。

「じゃあ関係者席用意する。人混みは不潔だから」
「いいの?」

 私が想定していたのは、あくまで一般人として観に行くことなのだ。大々的に迎え入れられるつもりなどなかった。しかし聖臣はなんてことないように「余ってるからいい」と言った。それならばと私も了承し、普段より少しきれいめのワンピースを着て試合会場へ向かったのだった。

 初めて生で観る試合は圧巻の一言だった。観に来てよかった、と素直に思う。バレーボールから聖臣を好きになる人が続出するのも納得だ。帰ろうとした時、試合を終えた選手達が観客席へやってきた。

「あー、これが臣くんの彼女?」

 金髪の選手は宮といっただろうか。あまりの距離感のなさに戸惑いながらも、私は一応お辞儀をする。

「へー、臣臣こういう子と付き合ってんだ!」

 他にも知り合いはいるだろうに、いつのまにか選手達の注目は私に集まっていた。こういったことを嫌いそうな聖臣は涼しそうな顔をしている。自分が関係なければいいのだろう。

 いつ帰るものかとタイミングを窺っていた時、近くにいた上品な女性から声をかけられた。

「あなた、聖臣の彼女?」
「そう、ですけど……」

 関係者席、名前呼び、そして似ている容姿。聞かなくとも誰か予想がつく。

「聖臣の母です」

 頭を下げられ、慌てて返しながらも私は聖臣を恨んだ。関係者席とはただの口実で、外堀を埋めるつもりだったのだ。これならば一般席のチケットを自分で取ればよかった、と思ってももう遅い。聖臣の罠に、私はまんまとはまってしまったのだ。