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「おい」

 突然クラスに現れた佐久早に、私は目を丸くした。佐久早とは去年同じクラスでたまに話していた仲だ。今でもメールなどでやりとりはするが、わざわざ教室を訪ねるとは珍しい。佐久早は私が出入り口まで来たのを確認すると、挨拶もなしに問いかけた。

「もうそろそろ何がある」

 この季節に行事はあまりない。佐久早にとって重要な春高も終わってしまったことだろう。来月のスケジュールを考え、私はよく考えないまま口にする。

「え? バレンタイン?」

 佐久早は正解とも言わず、次の話を続けた。

「そうすると俺の身に何が起こる」
「手作りチョコが大量に届く……?」

 何故佐久早が一方的に私に質問をする形なのかもわからなければ、佐久早の質問の意図も掴めない。佐久早に流されるままに、私は次の質問を待った。

「それは避けたい。てことで付き合うぞ」

 あまりの横暴さに思わず声を荒げる。いくらなんでも私のことをいいように使いすぎではないだろうか。

「虫除け扱いしないでよ! 私の意思は!?」

 私が叫ぶと、佐久早は落ち着いた様子で言った。

「嫌なら断っていい」

 私は思わず勢いをなくす。佐久早は私が嫌ではないことを知っているのだ。私が引き受けるとわかっていて、あえて私に選択させようとしている。

「ホワイトデー以降も付き合うかはお前に任せるから」

 相変わらず私に任せようとする佐久早に、私はたまらずに叫んだ。

「大事なところで主導権手放すなー!」

 私と付き合ってもいいと思うくらい私のことをよく思っているなら、いっそ告白しろ。そう言う勇気はまだない。