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「好きです」

 そう言われたことは想定外ではなかった。目の前の苗字名前が自分を好きであることはとうに承知済みなのである。果たして苗字が自分の気持ちが知られていることに気付いているかどうかはわからないが。

「好きだけ?」

 古森は、試すような視線を向ける。普通、告白とは後に「付き合ってください」が続くものだ。古森の一言は言わば親切心だった。苗字が緊張して言うことを忘れているならば、思い出させてやろうと。しかし苗字は、真っ赤な顔で思いもよらぬ言葉を吐くのだった。

「あ、愛してます!」

 古森は目を丸くした後、勢いよく笑い出す。付き合ってくださいと言えばいいものを、苗字は古森に試されていると勘違いしたようだ。高校生なのに「愛」を持ち出す女子は重いと敬遠しがちなのだが、苗字に関しては片思いに必死な様子が可愛いので許せる。これが好きということなのだろうか。

「苗字さんやっぱ面白いわ」

 古森は目に浮かんだ涙を拭き取り、苗字に向き直る。

「付き合おう、あー俺から言っちゃった」

 苗字に最後まで告白させるつもりだったのに。古森のそんな思惑も知らず、苗字は嬉しそうな顔をしている。古森の思いつきで表情が次々と変わっていくさまを見るのは、悪くない。