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「自分は何で俺のこと好きになったん?」
昼休み、侑はパック飲料を飲みながら名前に問いかけた。名前と侑は付き合っていないが、二人で昼食を食べるくらいなのだから少なからず名前のことを気に入っているのだろう。名前は学食の定食を食べる手を止め、顔を上げる。
「新入生歓迎会の部活動紹介でめっちゃ滑ってたやないですか、そこからです」
至って普段通りに言った名前なのだが、侑は動揺を隠せなかった。
「ちょ待てや! 試合は?」
「観に行ったことないです」
侑は自分を格好いいと自負している。特にバレーボールにおいては。侑を好いている名前が侑に目をつけたきっかけがバレーではなかったこと――それも滑った姿であったことが、気に入らないのだろう。
「好きなら観に来いや! もっとカッコいいとこ好きにならんかい!」
侑や治のミーハーなファンは観戦に来るのに、何故だか名前は観に来ない。「そもそも私と侑先輩との接点がないですし」と言っている名前は、話したこともない女子生徒がうちわを作って応援に来ていることを知らないのだろう。
「待ってろ、今カッコええとこ見せたる」
意気込んだ侑に、名前は不思議そうな顔をした。
「バレーボールなんかないですよ?」
侑の格好いいところはバレーだけだと思っているのだろう。名前は侑を甘く見ている。バレーをしていなくても、侑は格好いいのだ。
「名前ちゃんにちゅってすればええねん」
侑が得意げに言うと、名前は冷静な顔でそれを断った。
「付き合ってないのにそれはやめてください」
「俺のことフるなや!」
恋愛に対してのプライドは恐ろしく高い上に、名前が侑を好きであることを知っていて返事もせずにいいように扱っている。そんな侑を好きな名前もまた、曲者なのかもしれなかった。
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