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それは都内のとある居酒屋にて、飲み始めて十数分が経った時のことだった。
「見て見て! 俺、女人気あるんだって!」
自らのチームの特集が組まれた雑誌を掲げ木兎は大きな声で言う。MSBYブラックジャッカルや木兎自身が取材を受けることは珍しくないが、今回はコンセプトが違った。普段はバレーやアスリートであることに焦点を当てて記事が組まれるが、今回は「男の魅力」といった切り口からの特集だった。甘いマスクで人気の宮侑を始め、木兎にも女性読者からのコメントがついている。
「よかったですね」
赤葦は生ビールを飲みながら言った。仕事が多忙な赤葦とはたまにしか会うことはないが、今日は赤葦がいてくれて本当によかったと思った。というか、赤葦がいなければ私は木兎と二人で飲むことすらしなかっただろう。私と一対一での飲みに、木兎が来ると言うかはわからないけれど。
「ねー、苗字は何か言ってくんねーの!?」
木兎はそう言って自らの出ている雑誌を見せつける。「ちょっと子供っぽいけど、それが可愛いっていうか(笑)」「年下彼氏にしたいタイプ」私は木兎の写真の下の並んだ女性からの声を読んで眉間に皺を寄せた。そうしている間にも木兎は褒められるのを待っているかのような表情でこちらを見ていて、仕方なく私は口を開く。
「なんていうか……うーん……まあ、はい」
するとそれが不服であるかのように木兎が畳みかけた。
「何で苗字は祝ってくんねーの?」
「察しましょう、木兎さん。苗字さんは木兎さんのことを格好いいとは思っていますが他の女性にキャーキャー言われるのは取られないかと心配なんです。きっと複雑なんですよ」
「そっかー、それなら仕方ねーなー」
平然と人の恋愛事情を酒の肴にする男二人の横で自棄になったように私は枝豆を口に詰め込んだ。何とデリカシーのない男達だろう。木兎が女の子の気持ちを察することができる男だとは思わないが、赤葦は何という裏切りだろうか。高校時代からなので慣れてしまった部分もあるが。人気プロバレー選手とエリート編集者の対談として今の会話も雑誌に載せてほしいくらいだ。
「ていうか取られないかとは思ってないし。元から木兎は私のものじゃないし」
「でも木兎さんに人気が出ると不安なんでしょう?」
そう聞かれると返す言葉のない私を木兎が笑って見た。
「まーまー、人気になったらなったで苗字に高級焼肉奢ってやるからさ!」
「その時は是非俺も呼んでください」
「赤葦鋭いくせに何でそういうところで空気読んでくれないの?」
活気のある従業員の声と共に、レモンの添えられた唐揚げが机に置かれる。今は安物の唐揚げだが、いつか木兎と二人で高級肉を食べられる機会があるはずだと信じて私は唐揚げを頬張った。
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