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 私のことを好きだと言う轟君に、私はお決まりの言葉を口にした。

「だから、私は本当は成人だから轟君のことを子供としか思えないの!」

 私はひょんなことからこの世界へやってきた異世界人である。今では高校に通っているが、元々は社会人だ。成人が未成年を恋愛対象として捉えるわけにはいかない。何度も言ってきた言葉であるが、轟君は食い下がった。不満そうな顔をすると、私の腕を引いて歩き出す。

「ちょ、どこ行くの」

 思わず尋ねると、轟君は涼しい顔で振り返った。

「俺のベッドで寝る。添い寝くらい普通だろ? 子供なんだから」

 轟君は嫌味なくらい最後の言葉を強調した。私が本当轟君のことを子供だと思っているなら、添い寝くらい親戚の子供と昼寝をするようなものだろう。だが私は曲がりなりにもこの世界で轟君とクラスメイトなのである。

「そ、添い寝はダメ!」

 慌てて立ち止まると、轟君は試すような顔で私を見た。

「苗字は子供を意識すんのか」

 もう、轟君は子供じゃない。わかっているのに、私にせめてもの言い訳すら言わせてくれないのだ。異世界人としての私の心が揺れる。もう過去の私を捨てて、何も気にせず轟君の胸に飛び込んでしまっていいのだろうか。本当は成人の私の心は、たった十六歳の男の子に揺るがされている。