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 タイムスリップをしたと気付いたのは、私を覗き込む聖臣が明らかに若いからだった。聖臣は不必要にからかう人ではないし、ドッキリにしては手が込みすぎている。私は七年前、高校時代に飛ばされてしまったのだ。

 私は聖臣にすぐそのことを話した。聖臣は微妙そうな顔をしていたが、私が聖臣のことを言い当ててみせると考えを改めたようだった。聖臣の信頼が得られたところで、私は一番重要なことを告げる。

「聖臣と私は未来で付き合ってて結婚間近なの!」

 何の躊躇いもなく叫んだ私に、聖臣は呆れたようだった。

「普通そういうことは未来が変わるからって話さないんじゃねぇのか」

 バタフライエフェクトを恐れて未来には言及しない、とはタイムスリップの掟である。聖臣は未来で私と付き合っているということより私がそれを話したことに関心があるようだった。

「変えたいからだよ! 私は一秒でも早く付き合いたいの!」

 私が一般論を無視した欲望を言うと、聖臣は冷静に答えた。

「俺が過去でお前となんかしたところで今のお前がそれを体験できるわけではないだろ」
「ぐぬぬ……」

 紛うことなき正論だ。私が未来を変えたところで、元いた過去を歩んできた私がその恩恵を与れるわけではない。私はタイムスリップしたところで聖臣とよりイチャつけるのではないのだ。唇を噛む私に、聖臣が近付く。

「じゃあ、おまけしとくか?」

 先程まで自分から乞うていたくせに、いざその気配を感じ取ると私は怯んだ。未成年の聖臣を前にして、今更異性のことをする度胸がなかったのである。

「いや、私は未来の聖臣のものだから。浮気とかは断じて」

 目の前にいる聖臣も聖臣には違いないのだが、私は彼と付き合っているわけではない。操を立てる私に感心するでもなく、聖臣は食い下がった。

「お前の大好きな俺の大サービスだぞ」

 過去の人物とはいえ、聖臣は私が長らく憧れていた人物に違いないのだ。私は頬を緩め、聖臣を見上げた。

「じゃあキスとかだけなら……ちょっとだけ……」

 まだ高校生だからキスだけなのだが、それに気付かなかったのか、聖臣は得意げな顔をしている。高校生の聖臣も結構、可愛いかもしれない。